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『幻の女』と『容疑者Xの献身』

本日はミステリー回。ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』(1942)と東野圭吾『容疑者Xの献身』(2005)の話を少し。

幻の女

1986年に文春文庫から『東西ミステリーベスト100』というブックガイドが出版された。
これによって俺のミステリー魂が大きく揺さぶられた。

何しろそれまでの俺ときたら、海外ミステリばかり読んでいて国内は乱歩、横溝、彬光ぐらいしか知らず、主戦場の海外においてもドイル、チェスタトン、ヴァンダイン、クリスティ、クイーンの有名どころをつまみ食いしているような状況。
そこに小栗虫太郎、夢野久作といった古典から島田荘司、笠井潔といった新進までが、ところ狭しと入り込んできたのだ。
もう上へ下への大騒ぎ。

その中でも俺を驚愕させたのは掲題のウィリアム・アイリッシュ『幻の女』。海外ミステリで第2位。
(ちなみに第1位はエラリー・クイーン『Yの悲劇』(1933)。日本人の『Yの悲劇』好きは異常である。まあ、俺も好きだけど)

さてある日、とある大学のミステリ研の学生と、『幻の女』のことを話していたら、『容疑者Xの献身』にも話が及んだというのが本稿の趣旨であるが、両作の内容に触れるので、それが嫌という人は**********で区切られた箇所を飛ばして読み進めてください。

**********

俺「『幻の女』ってさ、目撃者捜しのようでいて、最後にひっくり返されるよね」
学生「実はそういう話じゃなかったっていうのは、叙述トリックよりももっと評価されてもいいと思います」
俺「でも、そういうのって、他にどんなのがあるかな?」
学生「『容疑者Xの献身』もそうじゃないですか? アリバイ崩しと見せかけて、実はフーダニット」

確かに言われてみればそうなのだが、『幻の女』と『容疑者Xの献身』を同じ平面で語る発想が俺にはなかった。
確かに『容疑者Xの献身』の中には、犯人自らが「幾何の問題に見せかけて代数の問題を出題する」という話もしている。
東野圭吾が自覚的に手掛かりを見せている。あからさまに。

それにしても63年の年月の差と、確立された評価の差。言われなければ気がつかなかった視点だ。
「評価の差」と書いたが、これは『容疑者Xの献身』の評価が低いということではなく、スリラー・サスペンスの『幻の女』とは趣の違う本格ミステリとしての評価がなされている、ということである。

俺「でもさ、『幻の女』って初読の時はハラハラドキドキで、とにかく次のページ次のページって読んで、一気にカタルシスに流れ込んだけど、再読してみると、ちょっとおかしなところがあるよね」
学生「え?どこです?」
俺「真犯人が目撃者を殺そうとする場面。あれ、あんなに一生懸命探さないで、適当にやっとけば、自分は安全地帯にいられるのに」
学生「『容疑者Xの献身』も考えてみれば、無理筋ですよ。アリバイトリックのために、人ひとり余計に殺すなんて」

**********

このあと「たかが犯罪(捜査)のために、いかにムチャなことをやってしまうか」というミステリ話で盛り上がった。
こういう時は『富豪刑事』(筒井康隆 1978)のように、犯人をおびき出すために会社を作ったり飛行場を作ったりするような話は出てこない。
そういう話はその作品の世界観では「ありそうだから」。
(ちなみに飛行場を作る話はなかったか。それはいしいひさいちのパロディの方だ)

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コメント

No title

〉東西ミステリーベスト100
不勉強なことに、2012年にリニューアル版というのが出ていたのを今回調べて初めて知りました。日本編は獄門島と虚無への供物、ワンツーフィニッシュは前回と変わらないのが面白いですね(まあ、異論はないです)。

 京極夏彦は過大評価だと思いますが(好きな方には、ごめんなさい)。

〉容疑者xの献身、実はフーダニット
 確かに、普通はホワイダニット物だとみんな思ってますよね。本格論争も含めて、実に議論を呼び起こす不思議な作品だと思います。

マスカレードホテルを読んだ時は、富豪刑事のオマージュ?と感じました。

本格論争

>確かに、普通はホワイダニット物だとみんな思ってますよね。

あの企みは職人的な技巧を感じます。


>本格論争も含めて、実に議論を呼び起こす不思議な作品だと思います。

あれが本格でないなら、俺が好きなのは本格ミステリーではなかったのだな、と思いました。
まあ、法律で決まっているものではないので、好きなように議論するのが一番楽しいのです。

No title

今までで一番売れたミステリは何か?
と思って調べたことがある。

どうも結論は「不明」のようだ。

なぜかというとそもそも「ミステリ」という定義が大変難しい。 というか不可能らしい。

 結局誰かが(オラが) 「これはミステリ」と言えばミステリ。 違うと言えば違うということらしい。

 同じように「本格」「ハードボイルド」「冒険小説」・・・いろんなジャンルがあるが、どれも定義は曖昧。
「純文学」と「大衆文学」だって曖昧。花村萬月が芥川賞とった時にはぶったまげたが、審査員だってそんなもんだ。

No title

息子の少年ジャンプをチラ見していたら、巻末にこの漫画が好きなら、このミステリーがおすすめ、というページがありました。

 クリスティやクイーンだけでなく、ジェフリーディーヴァや殊能将之を挙げていて、最近の漫画編集者の趣味の良さに唸りました。小中学生がここら辺に触れたら、日本の未来は明るいですね。

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ジャーナル・ギャップ

Author:ジャーナル・ギャップ
酒と野球とミステリーをこよなく愛するが、なんの因果か中学受験についていろいろ書いていくことに。

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