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江戸川乱歩と大藪春彦

先日ミステリ好きの友人と四方山話をしていたら、江戸川乱歩と大藪春彦のおもしろいエピソードを教えてもらったので、本日はその話です。
と書き始めたのはいいが、若い人の中には大藪春彦を知らない人がいるかもしれない。
我々オジサン世代にとっては『蘇える金狼』『野獣死すべし』で有名。どちらも松田優作主演で映画化された。
(松田優作を知らない人は、そうだなあ、松田龍平の親父ということでヨロシク)
兎にも角にも、大藪春彦とは戦後世代を代表するハードボイルド小説・アクション小説の驍将。

大藪春彦
往年の大藪春彦氏。若い頃はモテモテだったそうな。

この大藪春彦を世に出すのにひと役買ったのが江戸川乱歩だった。
ちょっと意外だなあ。かたや猟奇探偵小説の御大、かたやハードボイルドの若侍。
どうやら大藪が早稲田大学時代に書いた小説(『野獣死すべし』)が、当時のワセダミステリクラブの目に留まり、クラブの名誉顧問であった乱歩に紹介されたらしい。
早稲田つながりか。
文藝の早稲田のつながりは異常である。

さてここからが「面白い話」のキモである。
そんなわけで乱歩に紹介された大藪は、ある日乱歩に呼ばれ池袋の私邸を訪れた。
(ホラ、あの幻影城ですよ。俺は何回か行ってます)

ところが乱歩の事前の用事が押して、乱歩が応接室に入ると待ちくたびれたのか大藪はソファに横になって寝ていた。
乱歩が起こすと大藪氏、右手を挙げて「やあ」と挨拶したそうな。

いまならさしずめ、村上春樹にむかってメフィスト賞の新人作家が、起きぬけに「やあ」と手を振ったところか。
(メフィスト賞とは講談社が開催しているヘンテコなミステリの賞である)

実は俺はこのエピソードは知っていた。大藪春彦ってデビューの頃から「大物」だったんだなあ、と思っていた。
ところが友人によると、この話にはウラがあるそうだ。
こうなってくると俄然おもしろくなってくる。

どうやら実際はこうだったらしい。
私邸に呼ばれた大藪君、ただでさえ緊張しているのに、待っているうちに疲弊して、うっかり居眠りしてしまった。
そこを乱歩に起こされたのだが、「やあ」なんて言ってないとは本人の弁。

じゃあ、この話は誰が作ったのか。
簡単な算術の問題である。2-1=1。
犯行現場に人間は二人。大藪でなければ、犯人は乱歩だ。

乱歩は出版社の人間に、こんなふうに触れ回ったらしい。
「凄い新人が現れたよ、大藪春彦って言うんだ。今までにないハードボイルドを書く活きのいい若者でね、どれくらい活きがいいっていうと……」
その続きに「やあ」のエピソードを繋げたわけだ。

あっという間に大藪春彦の名前は出版界に広がって、一気に大藪はスターダムにのし上がった。
無論、大藪春彦が類いまれな作家であることは間違いないが、いい作家だからと言って売れるとは限らない。
売れなきゃ筆を折る人だってたくさんいる。
「大藪を売る」という、苦労人の乱歩らしいプロモーションは大当たりだったわけだ。

人でなしのエピソード満載の乱歩だが、こういう話を聞くと少し嬉しくなる。

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ジャーナル・ギャップ

Author:ジャーナル・ギャップ
酒と野球とミステリーをこよなく愛するが、なんの因果か中学受験についていろいろ書いていくことに。

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