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『彼女は頭が悪いから』1~そんな東大生はいないのか?

『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ 2018年)は、2016年に起きた東大生5人による強制わいせつ事件をテーマにした「非さわやか100%青春小説」(単行本帯より)である。

この小説に関しては、次の2点に絞って話をすすめたいと思う。
1.後味が悪いということ
2.東大という特殊性


まず、この小説のブックレビューでは「後味が悪い」という感想が山ほど出てくる。確かにこの小説は「後味が悪い」。
しかし、「後味が悪い」から「小説として出来が悪い」と繋げられると、一体何事が起きたのかと驚いてしまう。

どうも小説を読む一部の方々は、後味が悪い小説はお気に召さないようだ。
やれやれ。それじゃあ夏目漱石なんかかなり読んで貰えなさそうだな。

最後は正義の味方が現れて悪い連中を懲らしめる、そんな小説ではないので、そこのところはしっかり明言しておきたい。


次に「東大の特殊性」について。
この小説にはいろいろな学校名が出てくるが、付属を除くと実名が出てくるのは大学だけである。
東京大学、お茶の水女子大学、慶應義塾大学、…。
このうち東京大学だけが、血も肉もある固有名詞として登場している。
※ちなみに麻布学園は「麻武学園」として出てくる。

俺は実のところ、この小説に「東京大学」を出す必要はないと考えている。
たとえば架空の「帝都大学」という大学にして、その帝都大学の性格をそのまま東京大学にしてしまえばいい、ぐらいの気持ちがある。
フィクションの魔力をもってすれば、その程度のことで伝えるべきメッセージの核心は揺るがないだろう。
もし揺らぐとすれば、それは作家に文藝の力が足りないからだ。

しかしもし「東京大学」を「帝都大学」にしたならば、この小説は全く別物になるに違いない。
そう確信したのは、東京大学(駒場)で開催されたブックトークイベントの内容をネットで読んでからである。

まずブックトークイベントで驚いたのは、「実際起きた事件と本のフィクション性に、どう折り合いをつけるかということ」が最初の議題に上がったこと。
いきなりずいぶんと難しいことをやるんだな、大丈夫か?、一流の文学者だってその議論はなかなか難しんだぞ。

ここから先は瀬地山角氏(東京大学大学院総合文化研究科・教授)の悪口みたいになるので、その点はまずお含みおきを。

あのね、小説はどこまでいっても「小説」なわけ。むろんそれを人生の書としてもいいし、生活の指針にしてもいい。
しかし根っこは小説なわけだから、そこに書かれていることが「嘘」だからといって、それを指摘しても始まらない。
だって小説だもの、嘘だもの。
「嘘なんて読ませるな」と怒るなら、小説なんて読むな!

むろん瀬地山氏が「嘘なんて読ませるな」と怒ったわけじゃない。
その代わりこんなことを言いました。

この本は、東大の主要な描写について事実と異なる点が多いと思われたからです。教養学科のゼミでもこの本を読んだのですが、ブックトークでも述べたように、三鷹寮とか女子学生比率とか理Ⅰ生のこととか、そういった細かいように見えるけれど東大の現状を理解する上で重要な描写の一つ一つが違っているので、少なからぬ東大生はリアリティーを持って読めないという意見がたくさん出ました。

登場人物のディテールを描いていくはずの前段の部分で、試験の成績も進学先の選択の話題もなしに描かれると、中にいる人間からは架空の話になる。

(いずれも「東大新聞オンライン」2019年4月17日)

馬鹿かな?
あのさ、本物の三鷹寮は狭いのに登場人物が「広い」って言ったり、本当の女子学生比率は20%なのに30%(あるいは10%)と書いてあるから、「重要な描写の一つ一つが違っているので」、「東大生はリアリティーを持って読めない」んだってさ。

もう1回、言っていい?
馬鹿なのかな?

もし本当に「少なからぬ東大生」がそう言っていたなら、それは結果的に『彼女は頭が悪いから』における主人公たち東大生が、現実の東大生に近いことを証明する。
この事件の加害者たる東大生たちは、現実を測るメジャーを1つか2つしか持てず、他者の価値観に立って物事をとらえられない人たちだからだ。

三鷹寮は狭くて苦学生の象徴なのに、そこを「広い」と表現されたら読み進められない、というのは、難癖をつけているのでなければ圧倒的な想像力の不足だ。

また、試験や進振りの話がないからリアリティーがなく「架空の話」になってしまう、というのは、あまりにも自分たちの価値観に寄り添い過ぎた話だ。
世間ではそれを「自分勝手」という。

書けば書くほど『彼女は頭が悪いから』に出てくる東大生と同じ根っこを持ってるぞ、瀬地山と瀬地山の周りの東大生。
大丈夫か?事件起こすなよ。

この話題、続けると思います。
だって、作中における「東大生の挫折」とか書きたいし。
てゆうか、いくら文学が専攻じゃないからって、大学の教授がこんなに小説を読むのが下手でいいのか?なんて思いました。

※ちなみに「帝都大学」で検索してみてください。すごい名門大学ですよ。

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コメント

姫野さんの小説は読んでいませんが、東大新聞オンラインに載っているブックトークレポートと書き起こし(2019年2月5日)、瀬地山先生インタビュー(2019年4月17日、19日)を読みました。

色んな角度、切り口から議論ができそうな題材ですが、一つの感想として思ったのは、瀬地山先生の頭の中には瀬地山先生固有の「東大生のイメージ」があるのだろうなということです。瀬地山先生に言わせれば、「それはファクトに基づくものであって、単なる主観的な幻想とは異なる」と仰るでしょうけれど、数ある事実の中からどのようなファクトを取り出すか(あるいは取り出さないか)、どのように取り出すかについては、やはりその人の主観やイメージの影響を受けるように思われます。

また、瀬地山先生のゼミの学生の中には、「小説内の描写が現実と異なり、リアリティーを持って小説を読めない」という意見を持つ者が少なくなかったようですが、これらの学生においても「東大生のイメージ」が読解の妨げになってしまっているような気がします。東大生自らが「東大」という記号の象徴性を自ら強化してしまっているかのような印象を受けました。

「東大教授・学生が東大について書かれた小説を読むことの困難性」という構造的な問題もあるのかもしれませんが、テクスト(特に小説)の読解はもっと自由で開かれたものであるべきではないか(※)。

東大生が持つ「東大生の物語」とその他の人間が持つ「東大生の物語」とのズレや相克を止揚させる方向にブックトークが進まなかったのは残念です(林香里先生は頑張っていたようですが)。

※今も授業で用いられているのかどうか知りませんが、東大の教養課程のテキストである(であった?)『知の技法』(小林康夫・船曳建夫編、東京大学出版会)の中に、「解釈-漱石テクストの多様な読解可能性」(小森陽一)という論稿が収められていて、テクストの読解論として読み直してみたいなと思いました。

No title

またしても本題と関係ない連想投稿。

イヤミス、という小説分野?がある。
イヤな気持ちになるミステリ、のことだと思う。
ミステリの女王といえば クリスティだが、イヤミスの女王というと 湊かなえ さんのようだ。

 オラ、この人もインタビューしたことがある。推理作家協会賞の時だったと記憶している。イヤミスの女王だが、推理作家協会賞受賞作は、爽やかな読後感の良い作品だった。 まあ 作家たるもの 読後感なんて自在に操れるのだろう。
 
 オラが読んだ中で最大のイヤミスは 貫井徳郎さん 「慟哭」 。 作者の力量には感心したが、この後味の悪さは・・・  

 オラは基本的には読後感の良い、泣けるミステリが好きだが、そればかり読んでいると飽きる。時にはイヤミスも読みたくなる。 というか、読後感がいいか悪いかは読む前に知らない方がいい。帯に「泣ける」とか「驚愕のラスト」とか書くのは大きなお世話である。

 どーでもええが「全米が泣いた」とかいうコピーは明らかに嘘で、誇大広告だと思うが、嘘もあまりに大きな嘘だと問題にならないらしい。 日本一と書いて、日本一でないと問題になるが、宇宙一とか銀河系で一番とか書けば問題にならないのかもしれない。

どんどん脱線するが、自称「宇宙一の美女」という女性を知っている。 「私は宇宙一の美女よ」と本当に言うのだ。 ほほほ

>日本一と書いて、日本一でないと問題になるが、宇宙一とか銀河系で一番とか書けば問題にならないのかもしれない。

「世界一」とか「業界No.1」のようないわゆる比較広告は、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)により規制されています。景表法は、自己の供給する商品・サービスが競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される表示を不当表示として規制しています。

比較広告が不当表示に当たるかどうかの基準については、消費者庁がガイドラインを公表しています。ガイドラインでは、比較広告が不当表示とならないようにするためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があるとされています。

① 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
② 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
③ 比較の方法が公正であること

「宇宙一」や「銀河系一」を客観的に実証することは不可能な気がしますので、場合によっては不当表示と判断されてしまうかもしれません。

なお、ガイドラインは、上記①の要件に関して、「表示している内容が、明らかに空想上のものであって、一般消費者にとって実在しないことが明らかな場合には、一般消費者がそのような事実が存在すると誤認することはないので、不当表示とはならない」とも規定しています。
「全米が泣いた」は、これに該当する(明らかに空想であって一般消費者が誤認しない)ものとしてセーフなのかなあ。「宇宙一」もこれに該当してセーフなのか? わからぬ。

※消費者庁のHPには、問題となる比較広告の具体例として、「大学合格実績No.1と表示したが、他校と異なる方法で数値化したもので、適正な比較ではなかった」というものが挙げられています。

 何だか呼ばれたような気がしてうっかり出て来てしまいました(^^;
 Web申込みの契約はクーリングオフが適用されません。サプリメント等の『初回限定○○円』は定期購入申込みの場合のみ。効果がない場合は『全額返金』というのは△ヶ月以上購入した場合(1~2ヶ月では効果が出ない)というパターンが巷にあふれております。申込みのページには細かい規約を一切表示せず、詳細は宣伝広告とは別のページに書かれています。契約の詳細が書かれたページへの誘導もなく『初回お試し○円』『全額返金保証』という派手な申込みボタンがベタベタ貼られた広告は不当景品類及び不当表示防止法(景表法)に当たるのではないか?と思っているのですが・・・全く規制される気配がありません(/。\)

貫井と言ったら

>ミステリの女王といえば クリスティだが、イヤミスの女王というと 湊かなえ さんのようだ。
>オラ、この人もインタビューしたことがある。推理作家協会賞の時だったと記憶している。

もう、羨ましいったらありゃしない!


> オラが読んだ中で最大のイヤミスは 貫井徳郎さん 「慟哭」 。 作者の力量には感心したが、この後味の悪さは・・・

貫井徳郎といったら「慟哭」ですな。
でも俺は実は「プリズム」も好き。

>帯に「泣ける」とか「驚愕のラスト」とか書くのは大きなお世話である。

完全同意。
俺は「泣ける」と書かれていたら読みません。そんなお涙頂戴なんざ。
でも「鳴ける」と書かれていたら、読みたい衝動を抑えられる気がしない。

勉強になります

>効果がない場合は『全額返金』というのは△ヶ月以上購入した場合(1~2ヶ月では効果が出ない)というパターンが巷にあふれております。

なるほど、そういうことなのね、あの手の広告は。

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ジャーナル・ギャップ

Author:ジャーナル・ギャップ
酒と野球とミステリーをこよなく愛するが、なんの因果か中学受験についていろいろ書いていくことに。

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