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夏の盛りに横溝正史的な雪密室の謎2~足跡のない雪を見せたかったのか

今回の記事を読むためには、前回の記事「夏の盛りに横溝正史的な雪密室の謎1~地域によって儀式はいろいろ」(2019/08/25)を読んでからにしてください。
今回は伏線があるんですよ。(まさにミステリー的)


さて、九十を越える生き字引的な長老の婆さんと夏季限定ハワイアンフルーツパフェを挟んで、俺は終戦直後の雪の密室事件の話を聞くことになった。

婆「お前さんは、あまりこっちには来ないんだろう?」
俺「そうだね。今回みたいに誰か死にでもしない限り、来ないだろうなあ」
婆「じゃあ、あんたに会うのもこれが最後かもしれないね。今生の別れに、面白い話をしてあげるよ」


婆さんの話をまとめるとこうなる。
先々代の当主の琴右衛門さんという方が、終戦後まもない雪の朝に亡くなった。死因は特定できず、心臓発作だとかなんだとか。
琴右衛門さんは老齢だったので、自然といえば自然なのだが、婆さんはそこに疑惑を持った。

婆「だっておかしなことだらけさ。当時琴右衛門さんは離れに一人で住んでたのさ。ほら、あんたも見たろ、蔵の前の屋敷」
俺「ああ、あれね、ずいぶん古い日本屋敷。あれが離れか。でかいねえ」
婆「母屋は何回も取り壊して、今日みんなでご飯を食べたのが母屋の片割れだよ。それで離れの崖の上に炭焼き小屋があってね」


当時、その炭焼き小屋に仁さんという人が住んでいた。猟師が本職で、炭を焼いたり大工仕事もするような人だったらしい。
琴右衛門さんが亡くなる前の晩、琴右衛門さんの息子の修蔵さんが、仁さんのもとを訪ねて酒盛りをしたそうな。そして夜の間降った雪がすっかりやんだ朝、修蔵さんが離れに琴右衛門さんを訪ねていって、亡骸を見つけた。

婆「これがおかしいのさ」
俺「どこが?」
婆「そもそも修蔵さんと仁さんは、別に一緒に酒盛りするような仲じゃないね。仲が悪いわけじゃないけれど、まあ身分が違う。でもその夜は珍しい酒が手に入ったというので、修蔵さんが行ったらしいよ。仁さんは酒好きだったから、喜んで相手したらしいけど」


確かにミステリーでは気になる伏線だ。しかも話はどんどんミステリーワンダーランドへと入っていく。

婆「もうひとつ、おかしなことがあってね」

修蔵さんは起きてすぐに離れには行かず、仁さんをわざわざ起こして、これから琴右衛門さんのところに行くと話したらしい。
さらに「雪が積もったぞ」と雨戸を開けて仁さんに、眼下の離れの庭一面に降り積もった雪を見せたとのこと。

婆「雪なんて珍しくもないのに、大声で何度も何度も「雪だ見てみろ」と言って、見せたらしいよ」
俺「そ、そ、そのとき、ゆ、ゆ、ゆ、雪に、あ、足跡は」
(興奮したときの金田一耕助のモノマネ入り)
婆「なかったのさ。きれいに降ったままの雪だね」


そして修蔵さんは処女雪を踏んで離れに入り、すぐに出てきて仁さんに「親父が倒れてるから医者に電話してくれ」と怒鳴った。怒鳴られたって小屋に電話なんかないから、仁さんは母屋に行って事情を話し、電話してもらった。

婆「いまならどんな家にだって電話はあるから、「電話してくれ」なんて当たり前だろうけど、当時この辺りに電話のある家なんかほとんどないのさ。まして仁さんのところにあるわけがない。それなのに自分で行かずに仁さんに行かせたのは、何かしらの事情があったんだろうよ」

たとえば現場に一人でいるための事情とか。

前にも書いたが、琴右衛門さんの死因は特定できなかった。しかしだからと言って事件性があるというわけではない。
そもそも怪しいと言ったって、修蔵さんが前の晩に、あまり親しくなかった仁さんと飲んだこと。そして事件を知る前に、雪の上に足跡がないことを仁さんに確認させたこと。この二点だ。

婆「ところが、それ以外にもあるのさ」
俺「何が?」
婆「わたしは足が悪いからお墓には行かなかったけど、あんたは行ったろ?」
俺「うん、行ったよ」
婆「おかしいとは思わなかったかい?」
俺「おかしいって何が?」
婆「山の中に入っていったり、お墓の周りをぐるぐる回ったり」
俺「ああ、してたよ。あれ、おかしいのかい?この辺りじゃ、ああいう風習なんじゃないの」
婆「そんなことしないよ。あの家だけさ。それも昔はやらなかった。琴右衛門さんの葬式からだよ、あんなことやり始めたのは。よっぽど琴右衛門さんの祟りが怖いのさ」


俺はハワイアンフルーツパフェを食べ終えた婆さんを、家に送り届けた。
婆さんは車の中で、「ああ、せいせいした、誰にも言えないからねえ、こんな話は」。
どこまで本当の話かわからないが、本当だと困るので、テレビドラマに倣って最後にこんな言い訳を入れておこう。

この記事はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは関係ありません。
琴右衛門やら葬儀方法やら雪の足跡やらで検索して何かがヒットしたとしても、俺は何も知らないからね。

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コメント

No title

マダムに女子高生に、次は婆さまと来ましたか。

流石です。

死亡推定時刻が知りたいですね。

No title

もー、怖いよー。

次に会う時は、婆さん遺影の中かな

>マダムに女子高生に、次は婆さまと来ましたか。

はっ!
こんなミステリアスな話の中に艶っぽさが。

ちなみに婆さんはパフェを食いきれず、下半分ぐらいは俺が食った。
というわけで、九十過ぎの婆さんと間接キッスか…


>死亡推定時刻が知りたいですね。

そういやそんな話出なかったな。
婆さんからしたら、そこはどうでもいいのかもしれない。

もう一つのフィクション

修蔵は美しい女と恋仲になり、また女も修蔵と添い遂げることを願ったが、琴右衛門に反対された。

女は賢かった。
雪を使った完全犯罪計画を思いつき、修蔵に伝えた。ある雪の日、修蔵はそれを実行した。

女は畏れを知る人でもあった。
死者の弔いには念には念を入れた。提燈を持った者たちを山に入れさせ、また墓の周りを何度も回らせた。

しかし、女と修蔵は添い遂げることができなかった。その理由は今なおわからない。

そして女は雪が嫌いになった。
雪を忘れ、常夏気分に浸りたくて、今日もハワイアンフルーツパフェを食べる。もちろん半分だけ。

2019年の日影丈吉

甘えん坊将軍さん、法律だけじゃなくて文学の素養もありますなあ。
ミステリーと詩情は古来より相性がいいのですが、ラストのひと言が特に際立っています。

>もちろん半分だけ。

日影丈吉を彷彿とさせます。

ミステリーのない人生

いやあ文学は弱く、疎いんですよね。
学校の授業とか読書感想文を書くといった必要に迫られることなく自分の意思で小説を(というかブルーバックスなどその他の本も)読むようになったのは20代後半からで、読むといっても小説はごくわずか。横溝も乱歩もクリスティもドイルも読んだことがありません(大きな声では言えないので、ここは字の大きさを最小にしたいですが、夏目漱石すら一冊もまともに読んだことがない)。

なんだか人生の彩りの大きな部分を欠いてしまっているような気がしていますが、老後の楽しみを取っておいているのだ、と自分に言い聞かせています。
JGさんのミステリーカテゴリの記事はいつも生き生きとしているので(ああこの人はほんとにミステリーが大好きなんだな、とひしひしと感じます)、何かコメントしたいと思っているのですが、なかなかコメントできず・・・

まずは『アクロイド殺し』からかな。

文学あれこれ

 文学といえば歴史小説という分野もある。
 オラ 実は 歴史が大好きだ。
 学校の成績は悪いが、大好きだ。

 海外旅行 出張などに行くときはその国の歴史を勉強して行く。 一番てっとり早いのは関連する ミステリや小説を飛行機で読みながら行くのだ。
 例えばイスタンブールに行く時は 塩野七生「コンスタンチノーブルの陥落」。スペインに行く時は堀田善衛「ゴヤ」 ヘミングウエイ「誰がために鐘は鳴る」 ジョージ・オーウェル「カタロニア讃歌」ってな感じだ。

 歴史小説は、名手の手にかかるとページを繰る手が止まらなくなる。 寝る間も惜しんで読んでしまうのだ。 
 
 まあ定番でいうと

 司馬遼太郎「竜馬がいく」「坂の上の雲」
 吉川英治「三国志」
 宮城谷昌光「孟嘗君」
 塩野七生「ローマ人の物語」

いずれも超メジャー作品だが、メジャーだけあって面白い。本当にページを繰る手が止まらなくなる。
 
隆慶一郎「影武者徳川家康」
芝 豪 「朝鮮戦争」

も面白かった。

 ああ 歴史小説読みたいなあ。(仕事からの逃避)

 高校生や大学生の頃、定期テスト勉強をしていると無性に小説が読みたくなった。 つまり「逃避」である。 終わったらあれしたいこれしたい、と思っていてもいざ終わったら そんなことは綺麗サッパリ忘れていたりする。 ほほほ

No title

ちなみに「科学ミステリ」という小説もあったりする。
が、 大体の場合つまらない(偏見)。

 オラは一般人よりは科学の知識が多分あるので、
「知識欲が満たされる」ことはあまりない。

 むしろ ミステリにするための 「強引さ」「不自然さ」「誇張・曲解」が気に障るのだ。 だからあまり読まない。  

 もしかしたら歴史小説も 専門家からすれば「気に障る」のかもしれない。  が 素人からすればやっぱり小説の形になった方が面白い。

※まあ、オラの仕事も 本当の研究者からすれば「気に障る」部分もあるだろう。 ほほほ。

花晩夏~言葉遊びの夏~

 けもの道に転々と咲く可憐な白い花は墓地までの道しるべ。今年の夏も女はその狭い道を行く。縁薄き父が好きだった花を摘みながら・・・まるで新雪が足跡を隠すかのように悉に花の摘み取られたけもの道。その殺風景な景色は暗に秋の訪れを予感させた。
 長い長い時間をかけて墓に辿り着いた女は、細く白い指で摘んできた花を注意深く墓前に手向け、花が風に飛ばされてしまうのを防ぐかのように墓のまわりをぐるぐると回る。
 女の手に填められた白い手袋の秘密を知る者たちは荼毘に付されこの世にはいない。はるか昔からこの地に自生する白いトリカブトの花。西洋での花言葉は~美しい輝き~そして栄光・・・亡き父の財産を手にした女はゆっくりと墓を立ち去る。
 
 数えきれぬ程の年月が流れたある日、女は法事の人混みの中にかつて母が愛した男の面影見た。声をかけずにはいられなかった。男の端正な面立ちに遠い日の思い出が鮮やかに甦る。そして、女は心に秘めてきた想いをぽつりぽつりと男に語り始める。ハワイアンフルーツパフェに舌鼓を打ちながら語る女の顔は実に穏やかで満足げであった。

連城三紀彦みたいだ

また随分と格調高く迫ってきましたねえ。
「端正な面立ち」というのは、う~んどうでしょう(長嶋風)、照れますな。

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ジャーナル・ギャップ

Author:ジャーナル・ギャップ
酒と野球とミステリーをこよなく愛するが、なんの因果か中学受験についていろいろ書いていくことに。

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