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小栗虫太郎『黒死館殺人事件』~そりゃ屍体だって光るし、カーテンだって落ちるわ

さて『ドグラ・マグラ』の話をしましたので、今回は『黒死館殺人事件』を。
作者の小栗虫太郎という人はとんでもない小説を幾つも書いている人で、『完全犯罪』なんて、ヘンテコなトリックで密室をつくっています。
『黒死館殺人事件』もへんてこりんなトリックが出てきますが、読んだ人はそんなものさっぱり忘れています。
それどころか犯人が誰だったかも忘れています。もっと言えば、どんな事件だったかも忘れています。
エビングハウスの忘却曲線も真っ青の忘れっぷりです。じゃあ、何を覚えているのか?

探偵の汲めども尽きない、薀蓄ぶりです。博覧強記です。
でも残念なことに、まったく事件解決に寄与しません。むしろ解決を停滞させます。
この探偵、名を法水麟太郎といい、とにかく知的巨人なのはいいとして、事件を解決する気があるのでしょうか?
ところが作者の小栗は、「探偵」という存在を決して揶揄しているわけではありません。
法水は一生懸命事件を解決しようとしているのです。小栗も真面目にそれを書いているのです。

一生懸命謎を解こうとする名探偵・法水麟太郎、そして真面目に推理小説を書こうとする作家・小栗虫太郎。
しかし悪魔たる犯人は無情にも彼らの努力を嘲笑うのであった。

いやいや、待て。本当に一生懸命謎を解こうとしているのかね、法水君。
西洋甲冑武者が持っている、富貴を表す英町旗と信仰を意味する弥撒旗が逆になっているからと言って
「Mass(弥撒)とacre(英町)だよ。続けて読んで見給え。信仰と富貴が、Massacre――虐殺に化けてしまうぜ」

だから何? 犯人が「さあ、これから虐殺しますよ。判る人には判るサインを残しておいちゃおうかな」なんてするか?
作者である小栗君、今度は君の番だ。
真面目なの? 不真面目なら「ああ、そういう小説なのね」で済ますけど、真面目なの? 真面目なんだよね。
真面目に「Mass(弥撒)とacre(英町)をひっくり返して虐殺(Massacre)」(ドヤッ
こんなことやってるんだよね?
もう全編こんなノリです。そりゃ屍体だって光るし、カーテンだって落ちるわ

ちなみに俺は『黒死館殺人事件』を、日本語で書かれた推理小説ではベスト10に入ると評価しています。
とにかく、ペダントリーの凄味を心底味わわせてくれます。

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ジャーナル・ギャップ

Author:ジャーナル・ギャップ
酒と野球とミステリーをこよなく愛するが、なんの因果か中学受験についていろいろ書いていくことに。

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