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『君主論』(マキアヴェッリ)とデート・マニュアルの不可解な関係

「本音で話そうぜ」
こんなこと言ってくる人いませんか?
俺の周りにはいっぱいいます。よほど俺が建前ばかり言ってるみたいですな。
しかし本音なんてつまらないものだぜ。
いまだに「本音=善」「建前=悪」のような論法を仕掛ける人がいるが、そういう人はどれだけ人間の「本音」に幻想を持っているのだろう?

「建前なんてクソ食らえですな」
こんな言葉をネットで見かけたので、よくよく探すと「プレジデント・オンライン」の記事だった。
記事の中身は鈴木喬氏(エステー会長)が、『君主論』(マキアヴェッリ)に影響を受けたというもの。
ちなみに『君主論』とは征服と統治に関して、理想や徳治ではなく現実的な手段によって国家を運営していくためのハウツー本である。

つまりは、女の子をデートに誘うのに「好き」とか「愛してる」とかそういうのをすべて取っ払って、どうやったら「チュー」できるのか、あるいはそれ以上の高みに昇れるのか、そういうための「ホットドッグ・プレス的デートマニュアル」の国家版である。

時々経営者やら政治家の中に「『君主論』に影響を受けました」などと言ってくる人がいるが、こういうのは微笑ましいのと同時に、いったいどれだけ薄っぺらい人生を送ってきたのか、とすら思う。

そもそも『君主論』が「スゲー!統治論の本質だ!人間の本音だ!」ともてはやされたのはそれが16世紀だったからであって、「キリスト教的欺瞞言説」がまかり通っていた世界だったからだ。
日本でもてはやされたのは、戦前の「天皇現人神的アホ草国家観」や戦後の「北朝鮮理想オマヌケ国家観」という右と左のトンデモ思想に対するカウンターカルチャーからだ(暴論

いまや『君主論』における非徳治論や非人間性などは生易しくて話にならない。
むしろ論中の「恩恵は小出しにして継続的に実施することで民衆の支持を得ることができる」に対して「恩恵を継続的に与えるなんて非合理」「言うこと聞かないならイジメて辞めさせればいいじゃん」の経営者が跋扈しているのだから、いかに『君主論』が温かいまなざしで書かれているか、わかろうというものだ。
(君主に至っては、ヒトラーやスターリンやポル・ポトやらが降臨した時点で……)

そして必殺のひと言としては、「そもそも『君主論』は本音論ではない、本音は別だ」。
『君主論』はマキアヴェッリがメディチ家に就職するために書いた本だ(まあ、それだけが執筆理由じゃなかろうが、かなりの部分を占めているのは確かだろう)。[wiki参照のこと]
つまりは「オレを雇ってよ」というのが本音で、歴代君主列伝は建前とまでは言わないが、本音を飾る衣だ。
その衣の美しさを讃えるのはわかるが、それを「本音」と判じるならば、それは建前に目を奪われている人と同じ愚を犯していることになる。

さて、最初に書いたように、俺は本音にあまり重きを置いていない。
本音なんて生の裸みたいなものだ。よほどの人間でなければ、生の裸など美しいものじゃない。
重要なのはその裸のどこをどうやって隠して、どこをどうやって露わにするかだ。

実は俺はもう四半世紀以上前に『君主論』を読んでいる。そして感銘を受けた。
しかしその感銘は、政治学の本音ではない。そうではなく人間道徳の「美しいこと」「正しいこと」「喜ばしいこと」と、政治学の「美しいこと」「正しいこと」「喜ばしいこと」は別次元にある、という世界観に感銘を受けたのだ。

でね、「本音で話そうぜ」って言われて本音で話したら、相手になりますかね?
たとえばデートで
「オレさ、別にお前のこと好きでも嫌いでもないけど、キスできたらいいなっていうか、もっといろいろしたいけど、そういうことのキープとしてデートしてるんだ」
なかなか世紀末的風景である。
マキアヴェッリも草葉の陰で俯いてるぜ。

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コメント

え、待ってた 建っ前

『君主論』は読んだことがありませんが、wikiで章立てを見る限り、ずいぶんとプラグマティックな本のようで、確かにビジネスのハウツー本のような装いがありますね(読んでもいないのに、マキャヴェッリさんごめん)。

個人的には、けっこう多くの物事は、「本音/建前」という位相よりも、「目的/手段」という位相で捉えたほうがすっきりするような気もします(そもそも何が本音で何が建前かは、第三者からは判別しにくかったりする)。
『君主論』も、それが本音論であるかどうかより、国家統治という目的との関係で有効な手段論たり得ているかどうかという見方のほうが有意義なような(私のこんな考え方もプラグマティック過ぎかもしれません)。

また「本音で話そうぜ」というのも捉えどころのない言葉ですね。

>本音なんて生の裸みたいなものだ。よほどの人間でなければ、生の裸など美しいものじゃない。
>重要なのはその裸のどこをどうやって隠して、どこをどうやって露わにするかだ。

というJGさんのお言葉は、私もそう思います。
『本音を話す』こと自体が直ちに是というわけではなく、
『達成したい目的との関係において、本音で話す(私としては、正確に言えば「本音で話しているように見せる」)のが有効な手段と判断されるのであれば、その範囲で本音を出す(「本音を出しているように見せる」)』ということかと(私がひねくれているだけかもしれません)。

いずれにせよ、この記事をスマホで読んでいたら下のほうにマッチングアプリの広告が出てきて、いろいろと考えさせられた平成最後の冬です。

No title

本音で話そうぜ、と持ちかけてくる人は、相手の秘密を探りたいだけです。

ギエロン星獣

>本音で話そうぜ、と持ちかけてくる人は、相手の秘密を探りたいだけです。

あるいは議論に負けそうになっている奴もかな?

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ジャーナル・ギャップ

Author:ジャーナル・ギャップ
酒と野球とミステリーをこよなく愛するが、なんの因果か中学受験についていろいろ書いていくことに。

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