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読点一つ打たないラストシーン~『見えない人』(G・K・チェスタトン)

昨年、友人に勧められて『君の膵臓をたべたい』(2015年 住野よる)を読んだ。なかなか面白い小説で、「10代の少年少女が読むような本は読みたくない」という人以外にはお勧めだ。
ただ一つ、とっても残念なシーンがあった。
終盤、登場人物の一人が悲しい出来事に遭って大泣きするシーンである。

これは個人的な審美眼の問題なのだが、俺は悲しいシーンではあまり登場人物に悲しんでもらいたくない。
同じように、楽しいシーンでは登場人物に大笑いして欲しくないし、衝撃の事実が明らかになったときは、あまり驚いてほしくない。
登場人物が感情を露わにすればするほど、俺は醒めてしまう。

そういった意味で、効果音の激しい映画も好きじゃない。
さあ、びっくりしろ! さあ、怖がれ! さあ、泣け! さあ

うるさいんじゃ!!!

映画と効果音といえば『ジョーズ』(1975年 スティーヴン・スピルバーグ)が有名だが、観直してみると思ったよりあの有名な音楽は使われていない。さすがスピルバーグは切り札の使いどころを知っている(何故か上から目線)。
そしてヒッチコックは『鳥』(1963年)のなかで、まったく音を使わない恐怖シーンを撮った。

さて小説に戻るけど、効果音のない小説の代表作は……さて、何があるかな。
『それから』(1910年 夏目漱石)のラストシーンなんかは静かな狂気に溢れている。『金閣寺』(1956年 三島由紀夫)、『斜陽』(1947年 太宰治)……うーん、ここは俺のフィールドであるミステリからひとつ。それも俺のとっておきのミステリ作家から。

『The Invisible Man』(1911年 G・K・チェスタトン)
このタイトルは『見えない人』と訳されることが多いが、でも普通に考えれば『透明人間』になる。H・G・ウェルズのあの有名な小説と同じですから。
で、この小説のラストシーンで探偵であるブラウン神父が「アッと驚く犯人」を捕まえた次の行には何が書いてあるか。
柳瀬尚紀の訳でご紹介しましょう。

フランボウはサアベルと紫の絨毯とペルシア猫の元に戻って色々な仕事を片付けに掛かりジョン・タアンブル・アンガスは件の娘の所に戻ってこの軽率な青年はその娘とこの上なく楽しくやれるはずである。併しブラウン神父は星空の下の雪に覆われた丘を何時までも殺人犯と歩いて二人が何を語り合ったかは知る由も無い。

これで小説は終わる。
この独特な余韻に、10代の俺はすっかりやられた。そしていまでもやられてる。

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コメント

チェスナッツ好きのチェスタトン

JGさんが以前エデュで好きだとおっしゃっていたので買って本棚の肥やしになっていたFather BrownのThe Invisible Manを読んでみました。
“people never answer what you say? They answer what you mean-or what they think you mean.”
“All language is used like that; you never get a question literally, even when you get it answered truly.”
いかに多くのミステリーがこのアイデアを下敷きに作られたことだろうと思いました。
この作品が書かれたのは1911年のようですが、同時代に書かれた漱石などと比較すると英文学は言葉の変化が日本語よりも小さいですね。それほど古さ(読みにくさ)を感じずに読むことができました。高校生の多読教材にいいですね。息子にも薦めてみます。

ただ、このチェスタトンのリズムある文体を日本語に移しかえるのはとても難しいですね。柳瀬氏もジョイスほどではないにせよ苦労されたのではないかな。読点なしというのは、原文の畳み掛けるようなリズムを伝えたかったからだと思います。
ちなみにJGさんの引用された最後の部分はこうなっていました。
Flambeau went back to his sabres, purple rugs and Persian cat, having many things to attend to, John Turnbul Angus went back to the lady at the shop, with whom that imprudent yound man contrives to be extremely comfortable. But Father Brown walked those snow-covered hills under the stars for many hours with a murderer, and what they said to each other will never be known.

舞台になったハムステッドはロンドンの高台にある住宅地で、近くにはハムステッド・ヒースという巨大な公園(というより野原?)があります。夏の終わりに開かれるケンウッド・ハウスの野外コンサートに行った時のことを思い出しました。ハムステッド・ヒースはThe Blue Crossの舞台にもなっているらしいので次はこれを読んでみようと思います。JGさん、面白い作品のご紹介ありがとうございました。

ハムステッド・ヒース

脛に傷さんも只者じゃありませんね。
素人さんはFather Brownを本棚の肥やしにはしません。(そもそも買わない)

ハムステッド・ヒースはぜひとも行ってみたいですねえ。
夏の少し前あたりに、あの野原でエールを飲んだら、さぞかし旨いだろう!

The Blue Crossの後は

「The Blue Cross」を読みましたら、ぜひ「The Secret Garden」も読んでみてください。
ちょっと驚くと思いますよ。

西部邁

脛に傷さんがあくきんさんなら、「只者じゃない」のは当然か。
それにしても「ブラウン神父ブック」も読んでるのか……

そういえば西部邁が「ブラウン神父ブック」の井上ひさしの発言を批判してたなあ。

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ジャーナル・ギャップ

Author:ジャーナル・ギャップ
酒と野球とミステリーをこよなく愛するが、なんの因果か中学受験についていろいろ書いていくことに。

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